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シリーズ古生物学・1−生層序学

化石とは何か,それについては既に“化石と情報”の項で簡単に述べさせていただきました.
本シリーズでは,“化石から何を知ることができるか”,というテーマで
化石の価値を明らかにしていきたいと思います.
今回は“化石と時代”です.

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化石の研究は昔から,地層の堆積した時代を明らかにすることが重要な課題のひとつでした.
地質年代表(参照)は,地球と生物の歴史を考える上で欠かせない物ですが,
この区分は,生物の登場と絶滅によって定められた物です.
簡単かつ大雑把に言えば,三葉虫が絶滅したのが古生代の終わり,
恐竜とアンモナイトが絶滅したのが中生代の終わりということです.

年代表をご覧になればすぐ気付く通り,“代(界)”の下には“紀(系)”,“世(統)”,“期(階)”と,
更に細かい区分が続きますが,これらもまた,生物の消長によって定められたものです.
中生代の細かな区分は,主にアンモナイト類の種または属の消長によって決定されています.

生物の消長を基準とした時代決定をおこなう学問分野は“生層序学”と呼ばれます.

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化石を含む地層は,当然堆積したときに下にあった方ほど古いです.これは“地層累重の法則”と呼ばれ,
地層のできた時代を測定する手法のない頃から知られていることです.非常に簡単な物理法則の応用ですね.
このことから明らかになる一連の地層の上下関係と,そこに含まれる化石の変化,
そして,離れた場所にある別々の地層にから同じ種類の化石の見つかる事例を総合し,
比較検討することで,現在の地質年代は編まれてきました.

なお,このような地層間の対比に用いることのできる化石は一般に“示準化石”と呼ばれ,
たくさん見つかる上,広範囲の地域(環境)に,短い期間生息していた生物が主に選ばれます.
なお,中学理科や高校地学のテキストに出てくる“示準化石”としてのアンモナイトや三葉虫は,
単なる代表的な例であって,これらからでしか時代を決定できないわけではありません.
また,単にアンモナイトと言ってしまっては,アンモナイト亜綱なら古生代デボン紀から中生代末までですし,
アンモナイト目としても中生代とまでしか決定できません.
しかし,更に突っ込んでデスモセラス・コスマティ( Desmoceras kossmati )とすれば,セノマニアン最前期と,
かなり詳細な年代決定ができます.(山本・速水,1971)

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地質年代表には中生代は2億5100万年前〜6550万年前,マーストリヒシアン(白亜紀最後の時代,マーストリヒト期)は
7060万年前〜6550万年前なんて数値(絶対年代)が書かれていますが,これらの数値は,不変ではありません.
あくまで基準は生物であり,より新しい時代からの化石の産出と,
産出した地層の年代測定で新たな結果が出れば塗り替えられるものなのです.

ちなみに,数値の決定は,物理化学的な手法が用いられています.
ひとつの方法としては,地層中のある種の放射性同位体の変化割合を測定する方法があります.
その手法は,用いられる元素からウラン−鉛法,カリウム−アルゴン法,ルビジウム−ストロンチウム法,
サマリウム−ネオミジウム法,C14法などがあり,それぞれ変化速度が異なるので,
時代の新旧に合わせた方法が用いられます.
また,フィッショントラック法など,これらとは異なる手法による測定方法もあります.

これらの数値を探ることは非常に重要な研究ですが,この数値が時代区分に反映されることはありません.
つまり,6500万年前を新生代と中生代の区切りとする,なんて決まりは作れないのです.

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ここまで読んで気付いた方もおられるかも知れませんが,
生物の消長による時代区分とは,絶滅と適応放散という進化システムを大前提にしています.
生物の進化なくしてはこのような区分など一切不可能です.
ですが,生物の進化は,実際に現場を観察した事例こそないものの,
疑いようのない事実であることは,わざわざ書くだけ無駄というものです.
この区分が健全に機能している,それだけでも十分とは思われませんか?

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さて,更にもう一点,重要なことがあります.
生物の絶滅なんて言っても,その地域で消えただけなのか,世界中から消えたのか,
どうやって決めるんだろう,ということです.
これは難しい問題です.
これを一時的に回避するために,地域ごとに異なった時代区分を作り,
データがそろったところで世界的な基準と対比するという方法が取られます.
もし,このサイトにある地質年代表に書かれていない時代区分を見つけられたとしたら,
それはきっとそういうことです.

データがそろい,複数の種による比較ができれば,この問題の解決はぐっと容易になります.

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しかし,更に突っ込んでもう一歩,生物の絶滅と言っても,
全世界から一斉に消えるなんてそうそうあることじゃありません.
しかしご注意を.
たった一例で世界的な区分を決定するわけではありませんし,
化石記録で確認できるような絶滅事変は必ず他の証拠を残します.
なぜならば,絶滅を引き起こす要因は,環境変動だからです.
また,小さな環境の変化によって生物間の相互関係が崩れることによる,生物的環境の変化も含みます.

そして,全世界に分布する生物なんてものもそれほどいるわけではありません.
様々な証拠を総合的に判断して行われます.

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現在,古生物学の研究は,新しい武器を使った,新たな研究分野が脚光を浴びています.
例えば機能形態学やタフォノミー.
恐竜の骨格から,どんな生活をしていたのか,どれだけのスピードで走れたのかを探る,なんて研究もありますね.
しかし,伝統的なこのような研究(生層序学)もまた,日々新たな発見のある,
そして,欠くべからざる重要な研究なのです.

ひときわ脚光の浴びることの多い“大量絶滅事変”も,このような研究をベースにして議論されます.
生層序と絶滅事変,この二つは切っても切れないどころの関係ではないのです.

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また,生層序学も昔のままではありません.
珪藻や放散虫など,顕微鏡サイズの化石を用いることで,これまで年代を測定することが困難だった
大型化石のほとんど含まれていない泥岩や,チャートなどの地層の年代決定もできるようになりました.
深海底の堆積物の,調査船によるコアボーリング調査は,生層序による時代決定の精度をぐっと高めています.
深海底にはジュラ紀後期から最近までの地層が途切れることなく,そして非常に良好な状態で
保存されていることから,非常に細かな生層序の構築が可能となり,
その良好なデータは,人をして海洋底を“天然の冷蔵庫”と言わせるほどです.

しかし,微化石による年代決定が如何に精度を増そうとも,大型化石による生層序が価値を失うわけではありません.
まず,微化石では年代の決定に時間がかかってしまいますし,
粒子の粗い砂岩や礫岩中には,微化石が保存されていないことが多いのです.
現場ですぐに確認できるというのも大きなメリットです,

また,例え生層序学が完成の域に達し,絶対年代が不変的な物になったとしても,
物理化学的な年代測定は,常に最適なサンプルを得られるわけではないので,
頼り切ることもできません.


化石は今も昔も,そしてこれからも,地球の歴史を編むための重要な糸であることは変わりません.




… Felix Gradstein, James Ogg and Alan Smith, 2004,『A Geologic Time Scale 2004』,589p.,Cambridge University Press
による数値です.

参照: 山本信一・速水格,1971,鹿児島県獅子島の白亜系,九大理研報,11,42.
…本当は,アンモナイトの生層序の論文でも引用したほうが良かったんですが….

改題・全面改訂:2007/03/29